◎書き出しのパターン(付録・古代の人名)

 

和算書の序文や跋文の、とくに文章の始まりの部分つまり「書き出し」は、5つのパターンに分類できるように思う。

 【パターン1】 数とは何か

そもそも数とは何であるか、数の概念がいつ発生したかに論及するもの。数は人類が登場する以前からこの宇宙に存在したとする、考え方がある。
『精要算法』藤田
定資序、『探賾算法』小出脩喜序、『算法求積通考』長谷川弘序がこのパターンになっている。

 【パターン2】 数学をつくったのは誰か

次に、伏羲が八卦をつくり、黄帝の時代に隷首が算数をつくり、周公の時代に礼楽射御書数の六芸(りくげい)の一つとなった、とする書き出しがある。江戸初期のものや教育的に配慮した和算書にはこのパターンが多い。易にもとづくときは、太極(たいきょく=宇宙の根本)や両儀(りょうぎ=陰陽)からときおこす。
『竪亥録仮名抄』著者不明竪亥録序、『神壁算法』源誠美序、『古今算鑑』内田恭(五観)序が該当する。

【パターン3】 ○○先生いわく

ひとむかし前の「カントいわく…」「マルクスいわく…」のスタイルの先鞭となるパターン。『算法求積通考』山口和の序の冒頭、「語(=論語)に曰く、これを草木の区してもって別あるに譬(たと)う」のように書名のばあいもある。また、『算法明解』の橋本佳隆序のように、具体的な名前を出さないときもある。
跋文にこのパターンが多く、『精要算法』安嶋直圓跋、『探賾算法』藤田貞升跋、『算法求積通考』佐藤解記跋が「○○いわく」から始まっている。

【パターン4】 数学は何の役に立つか

数学は人間界のあらゆる面で役に立つ、数学の果たす役割は大きい、と語りはじめるパターン。序文ではないが、『精要算法』の「凡例」は、「今の算数に用の用あり、無用の用あり、無用の無用あり。用の用は、貿買・賃貸・斗斛・丈尺・城郭・天官・時日、其他人事に益あるもの總て是なり」、「無用の用は、題術及異形の適等、無極の術の類、是なり。此れ人事の急にあらずと雖(いえ)ども講習すれば有用の佐助(=たすけ)となる」と述べ、無用の用についてもふれている。
ふるくは『新編算学啓蒙注解』土師道雲序、『拾璣算法』豊田文景(有馬賴徸)序、明治以降では『明治小学塵劫記』福田理軒序がこのパターン。

【パターン5】 最近の話題から

単刀直入に、なぜこの本を出版したか、なぜこの序文を書いたかなどを明らかにする。一般論をのべていないので、読みやすい。
著名な本に多くみられ、寛永四年(1627)の『塵劫記』玄光序、延宝二年(1674)の『発微算法』関孝和序、文化十一年(1814)『算学鉤致』河合良温序がこのパターン5の例になる。

 

○古代の人名

パターン2「数学をつくったのは誰か」の書き出しによく登場する人名は、伏羲、黄帝、隷首、周公。

【伏羲(ふっき)】 伏希、庖犠、包犠、虙犠、虙戯、虙羲、炮犠、宓戯、宓羲、宓犠、太皞(たいこう)、太皋とも表記される。尊称は羲皇(ぎこう)。

【黄帝(こうてい)】 別名は、軒轅(けんえん)氏、姫(き)氏、有熊(ゆうゆう)氏。

【堯(ぎょう)】 陶唐(とうとう)あるいは唐とも。

【舜(しゅん)】 有虞(ゆうぐ)あるいは虞とも。唐虞は、堯と舜をさす。

以上をまとめて、「先王」や「聖人」と書いているばあいもある。

このほか、古代の人名または職名は、隷首、羲和、常儀、臾区、伶倫、大撓、容成、重黎、羲氏、和氏、大章、竪亥、箕子、商高、栄方、陳子、孫子、周公、周官の保氏など。

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