◎孫子算経[1]

 

【原文】

孫子算經序

孫子曰夫算者天地之經緯羣生之元首五常之本末陰陽之父母星辰之建號三光之表裏五行之準平四時之終始萬物之祖宗六藝之綱紀稽羣倫之聚散考二氣之降升推寒暑之迭運歩遠近之殊同觀天道精微之兆基察地理從横之長短采神祗之所在極成敗之符驗窮道徳之理究性命之情立規矩準方圓謹法度約尺丈立權衡平重輕剖毫氂析黍歴億載而不朽施八極而無疆散之不可勝究斂之不盈掌握嚮之者富有餘背之者貧且窶心開者幼沖而即悟意閉者皓首而難精夫欲學之者必務量能揆己志在所専如是則焉有不成者哉

【句点】

孫子算經序

孫子曰。夫算者。天地之經緯。羣生之元首。五常之本末。陰陽之父母。星辰之建號。三光之表裏。五行之準平。四時之終始。萬物之祖宗。六藝之綱紀。稽羣倫之聚散。考二氣之降升。推寒暑之迭運。歩遠近之殊同。觀天道精微之兆基。察地理從横之長短。采神祗之所在。極成敗之符驗。窮道徳之理。究性命之情。立規矩。準方圓。謹法度。約尺丈。立權衡。平重輕。剖毫氂。析黍歴億載而不朽。施八極而無疆。散之不可勝究。斂之不盈掌握。嚮之者。富有餘。背之者。貧且窶。心開者。幼沖而即悟。意閉者。皓首而難精。夫欲學之者。必務量能揆己。志在所専。如是則焉有不成者哉。

【校注】

「采神祗之所在」の采(サイ)は「とる」と訓み、釆(ハン、ベン)の誤用であろう。

「神祗」の祗()は「つつしむ」と訓み、地の神を意味する祇(キ、シ)の誤用であろう。

「剖毫氂」の氂(リ、ボウ)は釐に通じる。

「析黍」のlei)は累に通じる。

幼沖」の沖は冲に同じ。

【訓読】

孫子算經序

孫子曰く、それ算は天地の経緯(=骨子、枠組み)、群生(ぐんせい=あらゆる生物。多くの民衆)の元首、五常(=人が常に実行すべき五つの道。仁義礼智信など)の本末(=大切にすべきものと、そうでないもの)、陰陽の父母、星辰(=星、天体)の建号(けんごう=名号を建てる)、三光(=日月星)の表裏、五行(=木火土金水)の準平(じゅんぺい=たいらか)、四時(=四季)の終始、万物の祖宗、六芸(りくげい=礼楽射御書数)の綱紀(=規則)なり。群倫(=衆人)の聚散(しゅうさん=集散)を稽(かんが=考)え、二気(=陰と陽)の降升(こうしょう=昇降)を考え、寒暑の迭運(てつうん=たがいにめぐる)を推(お)し、遠近の殊同(しゅどう=異同)を歩(たず=尋)ね、天道(=天、天の運行)精微の兆基(ちょうき=もといを始める)を観(み)、地理縦横の長短を察し、神祇(じんぎ=天の神と地の神。天神地祇)の所在を釆(わ)け、成敗(せいばい=成功と失敗)の符験(=しるし)を極む。道徳の理を窮め、性命(=生命)の情を究め、規矩(=コンパスとものさし。法則)を立て、方円(=正方形と円)に準(のっと)り、法度(ほうど=法律と制度)を謹(つつし)み、尺丈(せきじょう=長さと高さ)を約(つづ)め、権衡(けんこう=はかりのおもりとさお。つりあい)を立て、重軽を平らかにし、毫釐(ごうり=細かいこと)を剖()け、黍累(しょるい=少ない量のこと)を析(わ=分)く。億載(おくさい=長い年月)を歴(へ=経)て不朽(ふきゅう=永遠に滅びない)、八極(はちきょく=世界の八つの果て)を施して無疆(むきょう=きわまりがない)。これを散らせば勝()げて究(きわ)むべからず。これを斂(おさ=収)めんとすれば、掌握(しょうあく)に盈(み=満)たず。これを嚮(さき)にするものは富(と)むこと有餘(ゆうよ=あまりがある。余分)、これに背()むくものは貧(ひん)かつ窶(ろう=貧)。心を開くものは幼冲(ようちゅう=おさない。沖、冲は幼に同じ)にして即ち悟り、意(おもい)を閉(と)ざすものは皓首(こうしゅ=しらが首、老年)にして精(せい=詳)を難(かた)くす。それこれを学ばんと欲するもの、必ず量能(りょうのう=才能の多少をはかり考える)して己(おのれ)を揆(はか=計)ることに務(つと)め、志の在るところを専(もっぱ)らにすべし。かくのごとくせば、則ち焉(いづく)んぞ成らざることあらんや。

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[1] 知不足斎叢書本。算経十書本は、元首を元用とするなど表記に若干の異同がある。